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虐殺器官

Posted on 2016年5月9日 | No Comments

線上にある未来。

サラエボで発生した核爆弾によるテロ。これをきっかけに、世界中で戦争やテロが激化したことから、アメリカをはじめとする先進国は、最新のテクノロジーを用いた厳格な個人情報管理体制を構築することで、テロの脅威に対抗しようとしていた。一方、途上国では内戦や民族対立による、虐殺が横行するようになる。事態を重く見たアメリカは、新たに情報軍を創設し、各国の情報収集と戦争犯罪人の暗殺を行うようになった。

情報軍 特殊検索群i分遣隊で、特殊任務にあたる部隊のなかのひとりが、本作の主人公だ。諜報活動から要人の暗殺までを請け負う、スパイと特殊部隊のハイブリッド部隊の一員 クラヴィス・シェパードが、後進国で虐殺を扇動しているとされるアメリカ人 ジョン・ポールの暗殺を命令されたことから、大きく物語が動きはじめる。

ゼロ年代SFベスト 国内篇第1位という本作であるから、もちろんSF小説ではあるが、ミリタリーもの、スパイ小説、もしくはミステリー、はたまたディストピア小説といろいろな読み方ができる。

もちろんSF的なガジェットは、たくさん登場する。人工筋肉で構成され、使用後は廃棄モードによって壊死・分解される侵入鞘 イントルード・ポッド、コンタクトレンズのように角膜に貼りつけ、視覚上に様々な情報を映し出すことができるウェアラブルコンピュータ オルタナ、捕虜などの後頭部に貼りつけることにより、本人の意思とは無関係に身体を動かすことのできるシール状のデバイス SWDなどなど多彩。

これらSF的な素材を愛でるだけでもよいのだが、ジョン・ポールが発見し用いている、本作の根本原理ともいえる虐殺の文法、虐殺器官が、いまいちというか曖昧。そもそもの動機の説得力、テーマ性にも欠けていると感じ、意外性も面白みもない。オチについては言わずもがな。

饒舌な語りや死後世界の空想など、物語のなかでうまく機能しているとも思えず、無駄に感じるところもある。とはいえ、乾いた文体が肌にあい、素直に読むことができれば、サクサクと読み進めて、ビッグブラザーがあたりまえとなった世界以後の物語に没入できるだろう。

著者の伊藤計劃は、惜しまれつつも、肺がんによりこの世を去った。享年34歳。

ジョン・ポールが語っているのは、そういうことだ。言葉にとって意味がすべてではない、というより、意味などその一部にすぎない。音楽としての言葉、リズムとしての言葉、そこでやり取りされる、ぼくらには明確に意識も把握もしようがない、呪いのような層の存在を語っているのだ。

虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)



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