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夢幻諸島から (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

Posted on 2015年12月1日 | No Comments

もっとも、なにひとつ現実ではない。現実は、異なる、とてもはかない領域に属しているのだから。

時間勾配によって生じる歪みにより、精緻な地図の作成が不可能な世界。軍事的な交戦状態にある国で構成されている北大陸と、その主戦場となっている南大陸。その二つの大陸に挟まれたミッドウェー海に点在する島々、夢幻諸島 ドリーム・アーキペラゴが、本書の舞台であり、主人公ともいえる。

死と狂気、アートと愛、永遠の命と取るに足らないもの、アルファベット順に島々のエピソードがまとめられた本書は、短編連作集というか、島をめぐる物語群というか、旅行ガイドブックというか、あるいは諸島をめぐる博物誌というか……淡々としたガイドブック的なつまらない掌編もあれば、一人称で語られる興味深い短編もある。同じ登場人物がいくつものエピソードに繰り返して登場し、より謎が深まることもあれば、エピソードとエピソードが繋がることもある。

序文の語りからして、説明的でつまらないと思わせつつも、読み進めるていくと、その語りが騙りに変化してゆく。物語として全体像の把握も難しく、はじめはとても読みにくくのだが、次第に読み進めると、よくわからないままに物語の深みにはまっていく。その感覚が面白い。

本書を読むことで、夢幻諸島の全体像を把握できるわけでもないし、謎が解けてすっきりするわけでもない。時間勾配という大きなSF的な設定はあるのだが、世界全体に対して人や科学が、なにかをアプローチする物語ではない。島で起きる小さな事件、自然や風土、人々の暮らしぶりと生業、それらが島名のアルファベット順に、いわば意図なくランダムに並べられるカタログの体裁をとることで、世界が曖昧な形になって浮かび上がってくる。

正確な地図も作れないような世界は、誰にとっても曖昧で、自己中心的でしかありえない。本書とどう向き合うかは、時間勾配というSF的な設定から、おのずと理解できるのではないだろうか。

スライム(昆虫)、怖い。

財源は世界規模の宝くじであり、全員に開かれており、毎月ランダムに選択されたひとにぎりの勝利者を生み出す。くじの当選者は、だれであれ、どんな人物であれ、処置を受けることができる。かくして、野心に燃えるスポーツマンとスポーツウーマンや才能きらめくミュージシャン、慈善家、金持ち、魅惑的な人物、一般労働者、失業者、若者、年寄り、幸福な人、悲しんでいる人、将来性豊かな者、凡人、つまらない人間、不幸な者とともに、くじは否応なく無作為標本として、犯罪者や幼児性愛者、横領人、強姦犯、暴漢、嘘つき、詐欺師を選びだすのだった。全員に永遠の生命の期待が与えられた。

われわれの歴史は、求めた島とは異なるところに到着した冒険家や起業家によっておおかた築かれてきた。目的地に到着した人々も、期待していたのと事情が異なっているのに気づく場合が往々にしてあった。われわれの歴史は、出かけていっては途方に暮れ、戻ってきたか、どこかほかのところに迷いこんだ人々の物語がぎっしり詰まっている。

夢幻諸島から (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)



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