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老人と犬

Posted on 2015年12月25日 | No Comments

物語の導入部が圧倒的に良い。主役となる老人の人間性、飼い犬との関係性、美しい自然の描写と空気感が、優しく柔らかく抒情的に描かれる。ただし、これはケッチャム作品である。切り裂くような暴力性あふれる文章が、その背後に見え隠れし、突如として読み手に襲い掛かってくる。

とはいえ、本書はケッチャムのほかの作品と比べると、猟奇性も暴力性もかなり抑えられている。自分の飼い犬を無残にも殺した少年たちを、追い詰めてゆく復讐譚ではあるのだが、はじめは法的な手段に訴えるなど、極めて常識的なのだ。老人とその家族の過去と現在が丁寧に描かれる中盤は、ゆったりとしつつも、物語はドライブし続けて無駄がない。

救いようのない結末を見せつけられる前から、精神的に予防線を張りながら読み進めるケッチャムファンは、肩透かしを食らわされることになるかもしれない。だからといって、本書がケッチャムらしくない駄作かというと、そうではない。暴力や猟奇がケッチャムの本質ではないことを、本書は改めて示してくれているのだ。

猫派も犬を飼いたくなる一冊。

人と蛇は、最後の最後まで油断ができない。

レッドはいつだってわたしの手を見つめていた。
手と、手を使ってできることが、人間をほかの動物から隔てているすべてであるかのようだった

老人と犬 (扶桑社ミステリー)



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