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ねじまき少女

Posted on 2015年10月23日 | No Comments

石油が枯渇し、エネルギー構造が激変した近未来のバンコクが舞台。遺伝子改良した巨大な動物を使役させ、エネルギーを取り出す工場を経営する西洋人=ファランのアンダースン・レイクが、ある日、市場で奇妙な外見と芳醇な味を持つ果物ンガウを手にするところから、この物語ははじまる。

繰り返された遺伝子操作の弊害による疫病の蔓延、ニッポン・ジーンハック・ゾウムシという強力な害虫の発生、内燃機関に替わる高性能ゼンマイによるエネルギー供給、ゼンマイを巻くために遺伝子改良した巨大な動物・メゴドント、あらゆる食物と飼料となる遺伝子組み換え作物、実質的に世界の食とエネルギーを独占するバイオ企業=カロリー企業、環境破壊による主要な都市の水没、カロリーをジュールへ、ゼンマイ銃、娼館のアンドロイド=ねじまき少女……。

興味深い世界設定と、登場するガジェットの数々が、なんとも魅惑的だ。とはいえ、これらをSF的に楽しむだけでなく、この世界のなかで動き回る登場人物たちの群像劇にこそ、本書の魅力が凝縮されている。

カロリー企業から、タイの遺伝子プールについて調べるため、送り込まれたファランのアンダースン。元はマレーシア華僑の資本家であったが、中国人排斥運動が起き、マレーシアを逃げ出し、今はアンダースンの工場で働く、イエローカード難民のホク・セン。日本で作られた秘書用アンドロイドだが、タイに置き去りにされてしまい、娼館で働いているねじまき少女 エミコ。通産省と対立を深めている環境省の実働部隊=白シャツ隊の隊長で、賄賂を受け取らないその高潔さから、バンコクの虎という異名を持つジェイディー。そして、ジェイディーの副官を務め、秘められた過去を持つ、笑わない女カニヤ。

彼らの視点から視点を飛びながら、物語はこの5人それぞれの思惑と衝動に突き動かされるように、力強く進行していく。このドライブ感に身を委ねるように、読みすすめていくのが本書の魅力だ。物語のなかで、彼らがひたすらに望むものは、けっして与えられることはなく、それぞれの思惑はことごとく裏切られるのだが、それでも諦めることなく足掻きつづける衝動の力が、読むものの心を捉えて離さない。

物語の結末は、それぞれの衝動が辿りついた果て、緊張と混乱が頂点に達するバンコクが水没し、そこで静かに生活するねじまき少女・エミコの描写に移る。一転して変わる動と静の対比、エピローグの景色が、なんとも美しく印象的だ。

近未来ノワール小説の傑作にして、必読の一冊。

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)




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