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第六ポンプ

Posted on 2015年8月25日 | No Comments

ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス受賞の『ねじまき少女』で、一躍SF界の寵児となった著者 パオロ・バチガルピの短篇集。

食料問題、人口問題、エネルギー問題、水資源問題、化学物質etc.……この著者が描き出す終末的な世界は、よくあるディストピアではあるが、それが唐突ではなく断絶なく、今と繋がっていることが明らかで、ここにSF的な浮遊感は無い。集められた物語のどれもが、絶望の淵に立ちながら、どこにも行かずただ深淵を眺めているような思考の停止があり、ここに物語をドライブさせるヒーロは決して現れることはなく、人々はただただ現状に耐えるか流されて生きていくのだ。なんとも薄暗く重たい物語を想像しがちだが、ここにあるのは透き通った絶望とでも言ったらよいのか、その美しさと計ることのできない力を描き出している。

本書に収められた作品は、生きている構造物 活建築と成都の雑とした街の対比が美しい『ポケットのなかの法』、身体をフルートに改造された少女姉妹がなんともエロチックで破滅的で淫靡な『フルーテッド・ガールズ』、犬とSF的オフビートでグロテスクな『砂と灰の人々』、諸星大二郎が描くアフリカの民族がイメージされてしまう『パショ』、化石燃料が枯渇し穀物と筋力(ゼンマイを巻く)がエネルギー源となっている『ねじまき少女』と同じ世界を描く『カロリーマン』、水を大量に吸い上げる植物を狩ることを生業とする男の悲哀を描いた『タマリスク・ハンター』、不老不死を手に入れた人類と違法な出産と子供を処分する男のハードボイルドな『ポップ隊』、したたかにしぶとく生きる落ちぶれた男を描いた(ねじまき少女も登場)『イエローカードマン』、非SFながらも著者の語りの魅力が詰まった『やわらかく』、下水処理ポンプを管理する男と静かに白痴化する世界を描いた『第六ポンプ』の10編。

二人は全裸になった。白い肌の音楽の妖精。まわりの客たちは息を飲んだ。じゃまな布が取り去られて音は朗々と響くようになった。少女たちに移植された楽器が輝く。背骨にそったコバルト色の吹き口。きらめく音孔。真鍮と象牙でできた鍵がフルート化された骨格に並んでいる。体内には百種類くらいの楽器が埋めこまれている。

第六ポンプ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)



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