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葉桜の季節に君を想うということ

Posted on 2012年12月10日 | No Comments

叙述トリックの名作。ハードボイルドなテイストで物語は進行しつつ、最後の最後で読み手の思い込み・暗黙の了解・常識を覆される快感を味わう一冊。本格トリックの妙を期待すると肩透かしを喰らうが、この軽さも文体と相まって魅力的。

「そうなんだよな、花が散った桜は世間からお払い箱なんだよ。せいぜい、葉っぱが若い五月くらいまでから、見てもらえるのは。だがそのあとも桜は生きている。今も濃い緑の葉を茂らせている。そして、あともう少しすると紅葉だ」 「紅葉?」 「そうなんだよな、みんな、桜が紅葉すると知らないんだよ」 「赤いの?」 「赤もあれば黄色もある。楓や銀杏ほど鮮やかではなく、沈んだような色をしている。だから目に映えず、みんな見逃しているのかもしれないが、しかし花見の頃を思い出してみろ。日本に桜の木がどれだけある。どれだけ見て、どれだけ誉め称えた。なのに花が散ったら完全に無視だ。色が汚いとけなすだけならまだましも、紅葉している事実すら知らない。ちょっとひどくないか。君も桜にそんな仕打ちをしている一人だ。名前が同じなのに」

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)



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